YG~ガーディアンズ 第2ワ
第2話 「特機隊出動せよ」
特機隊と怪獣による中華街での乱闘騒ぎの翌日、一台のトレーラーが八王子駐屯地に到着した。
「待たせたな、神沢。」
「なんか悪いね、岩崎さん。で、例のシステムはどうなの?」
「心配するな、ちゃんとロックはかけておいた。しかし、いきなり頭ぶっ飛ばされるとは思ってなかったぞ。」
「俺も想定外だったよ。」
「悪いが、会社に戻らせてもらうぜ。仕事が待ってるんでな。」
「がんばってね、んじゃ。」
格納庫にコンテナを移し終えると、トレーラーはもと来た道へ引き返していった。
「野郎ども、すぐに作業にかかれ!」
「了解っ!」
四駆郎の呼びかけと共に整備員がコンテナに向かって走り出した。
「おはようございます。」
「おはようさん。高木、2号機の頭届いたよ。」
「本当ですか?」
「今、ヒデさん達が取っ付けてる。」
アラタはYGの収容されているドックまで走った。見ると整備班がクレーンを使い2号機の頭部の取り付け作業を行っていた。
メガホンからヒデさんの怒声が響いてくる。
「もうちょい右、右・・・あ~っ!行きすぎだ、ちょいと左に・・・よ~しそこだ!ゆっくり下ろせっ!ゆっくりだ!」
「副長、取付完了しました!」
「よし、ロック掛けとけ!起動してポロリはごめんだぞ!」
整備班のやり取りを見ながらアラタは自分の愛機を見上げた。左側に搭載されているロッドアンテナは2本になっていた。
「この子、前よりずいぶん男前になったね。」
声の聞こえた方を振り返るとエレン達がこっちに歩いてきた。
「これ、元々スクラップ送りの予定だったみたいですよ。」
「マジそれ?」
「まぁ、簡単に見分けが付くからいいんじゃない?」
そんな他愛の無い話にヒデさんが乱入してくる。
「ちょいとお宅ら、何変な会話で盛り上がっちゃてんの!整備するこっちの身にもなってよね。」
「こいつは、今までのワークスを上回る性能を誇る次世代機の一歩手前なんだから。」
「で、具体的に言うと?」
「よくぞ聞いてくれました!こいつには・・・」
「あっ!これ{NE,O,S}搭載してますよ!」
山崎の嬉しそうな声と同時にヒデさんはズッコケた。
「{NE,O,S}?なにそれ?」
「今までのワークスに搭載されてるOSを遥かに超えた次世代型モデルですよ!まさか本物を生で見られるなんて~」
「そんなにすごいのか?」
「はい!僕も前にサンプルを見せてもらったんですけど、従来のワークス用OS{M,O,S}よりも動作性が向上してるんですよ。」
「それだけじゃなく、最新型の学習コンピューターを搭載してるので一度とった動作を完全にマスターすることも出来るんです!」
「へぇ~。」
「まぁ、欠点といえば、その学習コンピューターが優秀すぎるぐらいですね。」
「どういう意味?」
「つまり、動作を覚えていく過程でパイロットのクセまで覚えちまうってことか。」
「そういうことです。」
「それじゃあ、アレックス達はまだ生まれて間もない子供みたいなものかぁ。」
「正確的に言えば、YGはまだ基本動作しかプログラムされてないコンピューターですよ。」
「それより、アレックスって何だよ?」
エレンが指差す方を見上げると、そこに立っていたのは1号機だった。
「1号機じゃないか。」
「違うよ、アレックスだよ。ただYGとか1号機って呼ぶのは寂しいじゃん。だからこの子はアレックス。」
まるで自分のおもちゃを自慢する子供のようにエレンはアラタの方を向いた。
「そうだ、ついでにこの子達も名前付けちゃおっか。」
「こいつらにか?」
「じゃあ、この子は・・・」
エレンは2号機の方を見て、しばらく考え込むと
「フェンリルとかは?」
「なんか、悪役っぽいな・・・」
「じゃあ・・・」
「・・・ブレイバー・・・」
不思議そうな顔をしてエレンがアラタの顔を覗き込んだ。
「・・・えーっとだな・・・」
返事に困ったアラタを救うかのようにドックにサイレンが鳴り響いた。
{警視庁より出動要請!浅草4丁目にて、02発生!YG及び支援車両は直ちに現場に急行せよ!繰り返す・・・}
ドックの向こう側より卑弥呼が走ってきた。
「全員、直ちにオフィスに集合!隊長が待っています。」
アラタ達はオフィスに向けて走った・・・
「ごくろうさん、状況について説明する。」
「浅草4丁目にある工事現場にて現在、犯人の男が会社の備品であるワークスを一台強奪、そのまま人質を取り籠城中。更に犯人は、慰謝料9千万を支払わない場合は、人質をお台場に沈めると言ってきている。」
「警察が説得並びに実力行使にでたが、どれも不発。まぁ早い話、警察じゃ無理だから特機隊に任されたってわけ。」
「全員、直ちに現場に急行せよ!」
「了解!」
神沢の掛け声と共に隊員達は壁に掛けられているヘルメットや帽子、防護ジャケットなどを身に着け、ドックに走った。
ドックでは四駆郎並びにヒデさんの指示のもと、整備員達が慌ただしく走り回っていた。
「3号機、弾丸の装填を急げ!装填完了次第、ブローバーマグナムをYGに搭載しろ!」
「2号機、各部の最終点検が完了次第、キャリアに搭載!」
「1号機、キャリアに搭載完了しました!」
「よーし、ロックの確認、怠るなよ!ロックの確認が終わり次第、速やかにキャリアから離れろ!巻き込まれたら煎餅にされるぞ!」
整備の完了したYG達が、キャリアに搭載されていく。隊員達がそれぞれのキャリアに乗り込んでいき、それに続いて神沢と卑弥呼も指揮車に乗り込む。
「特機隊、これより出動する。各キャリアは指揮車に続け。」
専用ハイウェイに繋がる門が開かれ、指揮車を先頭に3台のキャリアが浅草に向け出発した・・・
特機隊出動要請一覧
01・テロ、クーデターなど
02・ワークス犯罪(大がかりな破壊活動から酔っぱらい運転まで)
03・怪獣災害、その他
目的地・浅草
目的・犯人確保及び人質の救出
特機隊が現場に到着した頃には、かなりの人だかりが出来ていた。ワークスに殴られたのかあちこちにへこみが出来たメットマンが、売店を下敷きにして横たわっていた。
神沢は指揮車から降りると、現場で指揮をしていた刃型目のほうに歩いて行った。
「かなり派手にやられたね。」
「最悪だ。」
「いっそのこと、えらいさんに頼んで新型機導入してもr・・・」
「出来るならやっとるわっ!神沢!お前は応援に来たのか!?それともバカにしに来たのか!?どっちなんだ!?」
「ごめんごめん。で、犯人は?」
「ここの工事を受け持っている工事会社の社員で、3日前にクビを言い渡されたそうだ。」
「で、それに腹を立てて会社に復讐ってわけか。となると人質は・・・」
「社長だ。」
神沢はしばらく考えた後、通信機を手に取り、
「山崎、あのワークスの機種わかるか?」
{あれは、硎谷重工製のエレファントですね。パワーはワークスの中じゃトップクラスです。}
「弱点とかは?」
{現在、調べています。}
「OK。しばらく時間稼ぐからその間に頼む。以上、通信終わり。」
「神沢、何をするつもりだ?」
「犯人とおしゃべり。」
「正気か!?」
「まぁ、見といてよ。」
メガホンを手に取ると、神沢は犯人の方に歩いて行った。犯人の搭乗したエレファントの右アームには人質になった社長が宙ぶらりん状態で捕まっていた。
「あーあー、籠城中の犯人に告ぐ。この場は完全に包囲されている。速やかに人質を解放し、おとなしく投降しなさい。」
エレファントのスピーカーから犯人の濁声が響いてくる。
{うるせぇ!関係ないやつぁ、ひっこんでろ!俺はなぁ、このクソジジイに安月給でこき使われてよぉ、そいでちょっと溜口聞いただけでクビだぁ!}
{てめぇら税金ドロボーに俺の気持ちがわかるかってんだぁ!}
「た、頼む!早く、助けてくれぇ!このままじゃ・・・このままじゃ・・・」
「もう一度言う、速やかに人質を解放し、おとなしく投降しなさい。これ以上の抵抗は無駄である。」
{だからうるせぇんだよ!それとも、あーいう風になりたいのかよ?}
左アームでボコボコにされたメットマンを指差す。
「それでは、二つの選択肢を出す。そのままおとなしく人質を解放し、投降するか。それとも、翌日の新聞やニュースで全国に醜態をさらすか。好きな方を選びなさい。」
{てめぇ、ふざけてんのかよっ!コイツのこと殺すぞっ!いいのか!?マジで殺すぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!}
エレファントが乱暴にアームを振り回す。このままでは人質がいつ振り落とされてもおかしくない状況だった。
神沢は、意を決したように通信機を取った。
「山崎、どうだ?」
{はい、エレファントはパワーが高い反面、動きの方が鈍いので、YGで後ろに回り込んで取り押さえればすぐです。}
「わかった。各員に告ぐ。YGをただちに起動。犯人を取り押さえて、人質を救出しろ。」
{了解!}
神沢の指示のもと、アラタ達がYGに乗り込み、デッキアップが開始された。
{これより、YGのデッキアップを行います。危険ですのでお近づきの無いようお願いします。繰り返します・・・}
キャリアに同乗していた数人の整備班が誘導灯を手にデッキアップの補助を行う。
多くの群衆が見守る中、3機のYGが人工の大地に降り立った。
{エレファントの搭乗員に告ぐ!速やかに人質を解放し、おとなしく投降しろ!これ以上の抵抗は無駄だ。}
{なんだぁ?俺とやろうってのか?おもしれぇ!税金ドロボーなんかに負けるかってんだよぉ!}
エレファントがYGに向かって走ってくる。2号機がこれを避け、後ろに回り込み右アームを抑える。
「3号機、右腕の関節を狙え。間違っても外さんでよ。」
{了解!}
速水が照準をエレファントの右アーム関節に合わせトリガーを引くと、ブローバーマグナムの銃口から発射された弾丸が関節を破壊した。
人質となった社長はそのまま、2号機が回収し地面に降ろされた。
「1号機は直ちに目標の取り押さえろ。」
{了解!}
「ただし、力加減を忘れ・・・」
神沢が大事なことを言おうとした時、1号機ことアレックスはすでにエレファントの脚部関節を破壊していたところであった。
「あちゃぁ~。」
「1号機、もうやめなさい!犯人は戦意を喪失してるわ!」
{う、うわあああああぁぁぁぁぁ!助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!殺されるよぉぉぉぉぉぉぉぉ!}
先程の威勢はどこへ行ったのか、犯人の助けを求める声が、昼間の浅草にこだました・・・
夕方、八王子駐屯地
アラタ達はテレビにかじりついていた。
{さて続いてですが、昨日、怪獣との戦闘で横浜中華街を半ば壊滅状態に追い込んだ特機隊がなんと今度は浅草で大暴れ!}
「あっ、アレックスだー!うんうん、ちゃんと写ってるねぇ~。」
まるで自分の子を溺愛する親のようなエレンを見てアラタは呆れてため息をついた。
{犯人が抵抗を止めたにも関わらず情け無用と言わんばかりに止めを刺そうとするYGをもう一機のYGが抑え込み事態は何とか・・・}
「あ、そうだところで岡田さん。」
「千博でいいですよ。」
ただ一人事務机で子ガメの世話をしていた強面の男、千博は笑顔で答えた。
「これ、何ガメだ?」
「子供のイシガメですよ。ガラパゴスっていう名前なんです。かわいいでしょ。」
千博が指を動かすとガラパゴスもそれを追う。
「あはは、かわいい。」
「こういうのってなんか癒されるよね~」
エレンと共にガラパゴスを眺めていた岸川マリナがふとつぶやく。
{・・・とこの写真からわかるように3機のうち、1機だけ頭部の形状が違いますが、これはいったい・・・}
{これをご覧ください。これは昨日の横浜での戦いが終了した際に撮影されたものですが、2機のYGのうち、支えられてる1機には頭部が確認されません。}
テレビ画面に2号機の頭部写真がアップされる。
{なお、関係者の話によれば、昨日の戦闘で2号機の頭部が破壊され、廃棄予定だった試作型頭部を応急処置的に取り付けたとのことです。}
{つまり、規格落ち部品ってわけですか。}
{そういうことになるでしょうね。}
アラタはズッコケた。
メンテナンスドックでは、整備員たちが2号機の頭部を整備しつつ興味深そうにいじっていた。
「すごいよな、これ。」
「規格落ちとはいえ、結構高性能な部品使ってるぜ。」
「副長、これ見てくださいよ。」
整備員の一人が、3号機のバッテリーをチェックしていたヒデさんに声をかける。
「どうしたんだよ、いったい?」
「いいから、これですよ、これ。」
「何だこれ?」
2号機の頭部に設けられているメンテナンスハッチをこじ開けてみると、人間の脳と同じような配置で一つの電子部品が存在していた・・・
{さぁ、わずか2日でここまでやってのけた特機隊!次なる被害者はいったい誰か!?}
浅草商店街売店3軒損害・3、35900
ワークス2機大破・6、90000
今回の被害総額・1,025900円
続く
by LEGONChu
| 2015-08-22 23:33
| ストーリー